地球環境情報学研究室
研究内容

研究

近年継続中の研究課題

地球環境情報学研究室は高解像度のアーカイブを利用して環境変遷を解明しています。手法としては層序学、堆積物学、古海洋学、古気候学、年代学やデータサイエンスなどを組み合わせています。これによって数百年〜数百万年スケールの未知の環境変化についてひとつひとつ明らかにしています。
研究を遂行するために、ハードウェアやソフトウェアも独自に開発しています。例えば、不確実性を評価可能な年代モデルや、コア試料の変形の検出と補正をするためのオープンソースソフトウェアの開発を公開しました。また、調査地域に持ち込める小型で軽量なコア画像撮影装置も開発しました。その装置は、コンピュータビジョンと深層学習を用いて普通のカメラで連続撮影された数枚の写真からコア断面の合成画像を作成し、視差のないコア全体の画像が得られるという画期的なものです。伝統的なラインスキャナーのコストの100分の1で同様な画像をどこでも撮影できるハードとソフトを開発しています。

黒潮変動復元

黒潮は、熱と水蒸気を日本海と太平洋へ北上しながら運びます。経路や勢力の変動は、日本の気候や経済に強く影響を与えます。しかし、過去の黒潮変動は、まだ定量的に再構築されていません。過去の長期的な黒潮変動をよく理解することは、将来の気候変動を予測する上で役に立つでしょう。
私達は、国立科学博物館主導の、流れの強さによって直接制御されている海流を横切り、水温勾配の再構築をすることで過去の黒潮変動を理解しようと取り組んでいる大規模なチームの一員です。これは、KS-22-4やKH-23-11を含む、沖縄トラフでのいくつかの研究航海を通じて行われています。海溝の東側と西側斜面の堆積物コアから得られた底生有孔虫を使うことで、過去の同じ深度での海底水温の推定値が得られます。結果として、水温勾配が明らかになり、流れの勢力を検討することができます。

グレートバリアリーフの起源

オーストラリアのグレートバリアリーフ(GBR)の年代を直接決定することは、試料の限界などにより困難になっています。一方、GBRが位置している北東オーストラリアの縁辺部は珍しい特徴をもっています。それは大陸の亜熱帯雨林の河川から流入している珪砕屑性堆積物と、隣接しているサンゴ礁地帯で大量生産されている炭酸塩堆積物とが環境変化によってその混合の割合が変わるというものです。この特徴を活用し、大陸棚の変形史の復元しています。
これまでの研究から、沖合に堆積する堆積物の混合の割合が約8000万年前に変化したことを突き止め、大陸棚の外部が壁の役割を果たして、陸域の珪酸塩堆積物の割合が変化したことを明らかにしました。これがグレートバリアリーフの形成と判断し、間接的に形成年代を特定しました。
現在、GBR形成時の環境や形成要因について知るための研究を進めています。微化石と円石藻群集組成解析や浮遊性有孔虫の微量元素分析を用いた研究です。具体的には、GBRの形成は高海水準期がより長く継続するようになったために形成されたのか、周辺の環境変化が大きな要因となったかなどについて明らかにしようとしています。

国際学会の発表:
Obrochta, S.P., Miwa, W., Shirai, K., Kubota, K., Yokoyama, Y., Miyairi, Y., Asada, T., Webster, J., Mohtadi, M., and Hine, A.C., 2019. Mid Pleistocene Age for the Great Barrier Reef. American Geophysical Union Fall Meeting.

関連研究:
Webster, J.M., Braga, J.C., Humblet, M., Potts, D.C., Iryu, Y., Yokoyama, Y., Fujita, K., Bourillot, R., Esat, T.M., Fallon, S., Thompson, W.G., Thomas, A.L., Kan, H., McGregor, H.V., Hinestrosa, G., Obrochta, S.P., and Lougheed, B.C., 2018. Response of the Great Barrier Reef to sea-level and environmental changes over the past 30,000 years. Nature Geoscience 11, 426–432. 10.1038/s41561-018-0127-3

Sanborn, K.L., Webster, J.M., Webb, G.E., Braga, J.C., Humblet, M., Nothdurft, L., Patterson, M.A., Dechnik, B., Warner, S., Graham, T., Murphy, R.J., Yokoyama, Y., Obrochta, S.P., Zhao, J., and Salas-Saavedra, M., 2020. A new model of Holocene reef initiation and growth in response to sea-level rise on the Southern Great Barrier Reef. Sedimentary Geology 397. 10.1016/j.sedgeo.2019.105556

卒論
三輪, 2018 BS堆積相解析によるオーストラリア・グレートバリアリーフの形成年代の特定
淺田, 2020 BS. 中期更新世から完新世に置ける北東オーストラリア・グレートバリアリーフ周辺の堆積システムの解明

三輪, 2020 MS. 北東オーストラリア・上部大陸斜面における浮遊性有孔虫Mg/Ca古水温計の開発
淺田, 2022 MS. 北東オーストラリア大陸縁辺部の堆積システム解明によるグレートバリアリーフの形成年代の特定

富士山噴火史とモンスーン降水量復元

富士山地域は世界遺産に登録されており、年間に国内外から4700万人もの人が訪れます。一方、富士山は活火山であり、その噴火の予測や広域的な降灰の影響や対策は社会的に重要な課題です。将来の噴火や降灰範囲の予測には、過去の噴火の時期や降灰範囲を詳しく知る必要がありますが、地上で得られる情報には限りがあります。地上では侵食などの影響で時間的に不連続であったり、年代測定に必要な試料が得られないことがあるからです。このような問題を解決するため、堆積が連続して続いている深い本栖湖の地層を採取して火山の噴火史を研究しました。
得られた試料に対して、詳しく観察して、火山灰がどこに挟まっているかを調べまして、大沢噴火、大室噴火、最後の山頂噴火(剣ケ峰噴火)がもたらした火山灰を同定した。従来の研究では、大沢噴火の年代は3400年前頃(3214–3401 cal BP)、大室噴火の年代は3200年前頃(3072–3272 cal BP)、最後の山頂噴火は2300年前頃とされていましたが、今回得られた年代モデルを使うと、それぞれの噴出年代は3042 cal BP頃、 2930 cal BP頃、 2309 cal BP頃と推定されました。また、これらの火山灰が富士山の風上(西側)側の本栖湖で確認されたのは初めてで、これら3回の噴火による降灰範囲が従来の推定より広かったことが分かりました。富士山の既知のどの噴火にも対応しない火山灰層が2枚見つかり、富士山の西側で起きた2回の噴火の発見につながりました。このように本研究では、湖底堆積物の年代を詳しく調べることで、富士山の噴火の頻度や規模の予測に重要な知見を得ることができました。
また、アデレード大学のJonathan Tyler講師と共に繊維素の酸素同位体を測って、古降水量を復元しています。

科学雑誌の論文:
Obrochta, S.P., Yokoyama, Y., Yoshimoto, M., Yamamoto, S., Miyairi, Y., Nagano, G., Nakamura, A., Tsunematsu, K., Lamair, L., Hubert-Ferrari, A., Lougheed, B.C., Hokanishi, A., Yasuda, A., Heyvaert, V.M.A., De Batist, M., and Fujiwara, O., 2018. Mt. Fuji Holocene eruption history reconstructed from proximal lake sediments and high-density radiocarbon dating. Quaternary Science Reviews 200, 395–405. 10.1016/j.quascirev.2018.09.001

Obrochta, S.P., 藤原 治., 横山 祐典, and 宮入 陽介, 2019. 本栖湖の湖底堆積物の精密な放射性炭素 年代測定が明らかにする富士山の噴火史. Isotope News 763, 22–25. (PDF)

藤原 治, Obrochta, S.P., 横山 祐典, 宮入 陽介, and 常松 佳恵, 2019. 湖底堆積物から探る富士山の噴火史 -本栖湖に残されていた未知の噴火の発見-. GSJ 地質ニュース 8(3) 66–69. (PDF)

地質年代、年代モデル

従来の層序年代の推定法は深度の誤差がないと仮定しています。一方、この前提はコアの採取率が低い場合やコアの大規模な変形などにより、連続的に良質なサンプル得られない場合はあてはまりません。このような問題を解決するため、地球環境情報学研究室では独自に年代モデルのアルゴリズムを開発しました。「アンデータブル」(Undatable)という、不可能な年代測定を可能に、との意味のネーミングのソフトウェアです。アンデータブルは、年代と深度の不確実性の両方について、ベイズ統計ソフトであるマットカル(MatCal)を使うことで、放射性炭素年代を補正、決定論的に層序年代を推定しています。アンデータブルのコードは完全に最適化されていますので、他のアルゴリズムより速く結果を得ることができます。また、複数の地質コアアーカイブに最適化されていて、これまでに深海底や浅海底、湖底堆積物やサンゴの試料にも使用されています。

アンデータブルについてもっと知る、ダウンロード。

科学雑誌の論文:
Lougheed, B.C., and Obrochta, S.P., 2019. A Rapid, Deterministic Age-Depth Modeling Routine for Geological Sequences With Inherent Depth Uncertainty. Paleoceanography and Paleoclimatology 34(1) 122–133. 10.1029/2018PA003457

深深層学習による堆積物コアの解釈

堆積物コア試料をコンピュータによって詳しく解釈する第一歩として、地球環境情報学研究室ではこれまで手動で行われてきた生物や採取過程による擾乱の同定を自動化することに成功しました。これにより、より効率的に過去の地球環境を復元することが可能となります。堆積物コアのイメージを処理するために、畳み込みニューラルネットを学習させて、画像擾乱されているとされていない部分にセグメンテーションをするようなプログラミングを行なっています。
この研究は年代学とも関連しています。例えば、生物が海底や湖底を動き回ることにより、堆積物を混合しています。既に得られた畳み込みニューラルネットから、擾乱の程度を推定すれば、より精度高く年代の結果を評価できます。

科学雑誌の論文・国際学会の発表:
Fazekas, S.Z., Isawa, S., and Obrochta, S.P., 2023. Automated Extraction of Sediment Core and Scale Segments from Core Scanner Images. 2023 15th International Conference on Information Technology and Electrical Engineering (ICITEE) 1–6. 10.1109/ICITEE59582.2023.10317723

Fazekas, S.Z., Obrochta, S.P., Sato, T., and Yamamura, A., 2017. Segmentation of coring images using fully convolutional neural networks. 2017 9th International Conference on Information Technology and Electrical Engineering (ICITEE) 1–5. 10.1109/ICITEED.2017.8250490

卒論
伊沢, 2024 BS. Automated sediment core image segmentation and length estimations

ザ・ナマハゲ:携帯式、低歪み画像の撮影装置

コア断面の撮影は分析前に必ず行われる作業になっていますが、歪みや視差がない画像を得るため、これまではラインスキャン撮影技術が必要でした。ラインスキャンは、精密にカメラを移動させながら、正確な間隔で高速撮影により連続に画像を組み立つ方法になっているため、高価格で虚弱で、非常に丁寧な扱いしか対応できません。そのため、実験室以外では科学研究専用の掘削船以外にはほとんど導入されていません。このことはコア画像のもつ研究ポテンシャルを落とす要因になっています。というのも海底や湖底より数センチ下では無酸素状態となっているため、コア試料を採取してから直ぐ撮影を行わない場合は、色が変わってしまうためです。コア分析専用施設に持ち込んで後日撮影するまで酸素に触れて温度も変化する環境にしばらく置いての撮影となることがしばしばでした。そこで、現場ではコア画像は一般的なカメラを使った写真を撮影することが定番でした。しかし写真の両端には必ず歪みがあって、その変形のため、写真は実物と一致していないという問題があり、これもコア画像を研究に使う際のネックとなっていました。そこでこの問題をクリアすべく私たちは“ザ・ナマハゲ”とネーミングしたフィールド持ち込み型ポータブル撮影装置を開発しました。

国際学会の発表:
Obrochta, S.P., Fazekas, S.Z., Moren, J., 2022. Acquisition and processing of low-distortion sediment core images with computer vision and deep learning. AGU Fall Meeting 2022

Obrochta, S.P., Fazekas, S.Z., Moren, J., 2020. A portable system for acquisition of low-distortion sediment core images using computer vision and deep learning for post-processing. Japan Geoscience JpGU – AGU Joint Meeting 2020 (online)

Obrochta, S.P., Fazekas, S.Z., Moren, J., 2020. Using computer vision and deep learning for acquisition and processing of low-distortion sediment core images. European Geosciences Union General Assembly 2020 (online)

修論
畠山, 2024 MS. 沖縄本島西方地域におけるMg/Caに基づく完新世の古水温復元とコアスキャナー「ザ・なまはげ」で撮影したコア画像の安定化及び色彩値の較正

ジオハザード:東海地震の繰り返しと南海地震との連動性

我々の共同研究者らは、静岡県西部の太田川低地から7世紀末と9世紀末の津波堆積物を発見し、歴史記録上未確認であった2回の東海地震の発生を確認しました。南海地震が684年と887年に発生したことは歴史記録にありますが、同時代の東海地震については確実な歴史記録がありません。特に887年の南海地震では東海地域も含む広い範囲で強い揺れを感じたという記録があって、今回の津波堆積物の発見により東海地震も同時に発生したことが確認されました。これにより過去1300年について東海地震がいつ発生し、それが南海地震とどういうタイミングであったかをより詳しく明らかになりました。
本研究では、地層断面から植物の断片などを採取して、放射性炭素年代を測定しました。津波に巻き込まれた植物の断片は、津波発生時期の年代を示しています。地球環境情報学研究室は、複数の試料を用いて測定された年代値の統計処理により、津波堆積物の堆積年代として最も可能性が高い年代値を計算しました。

科学雑誌の論文:
Fujiwara, O., Aoshima, A., Irizuki, T., Ono, E., Obrochta, S.P., Sampei, Y., Sato, Y., and Takahashi, A., 2020. Tsunami deposits refine great earthquake rupture extent and recurrence over the past 1300 years along the Nankai and Tokai fault segments of the Nankai Trough, Japan. Quaternary Science Reviews 227. 10.1016/j.quascirev.2019.105999

放射生炭素年代補正

私たちは、マトラボ(MATLAB)のを使って放射性炭素年代を補正するため、「マットカル」MatCalというプログラムを開発しました。マットカルは、ベイズ統計を用いて、最も高い事後確率(highest posterior density – HPD)を計算しています。これを使うと、暦年の確率密度関数(Probability Density Function – PDF)や1、2標準偏差範囲の年代値などを出力できます。科学雑誌の投稿にそのまま使える図も作れます。リザバー効果またはその誤差も対応しています。また、補正曲線や年代の形式(暦年:BCE/CEや年前:Cal BP)を選択できます。

科学雑誌の論文:
Lougheed, B.C., and Obrochta, S.P., 2016. MatCal: Open source Bayesian 14C age calibration in MatLab. Journal of Open Research Software 4(1). 10.5334/jors.130

海水準変化

北西オーストラリア・ボナパルト湾で実施された白鳳丸KH11-1航海で採取された堆積物試料から海水準変動を復元する研究を進めています。大陸氷床はその重みで地球表層を変形させるため、全球的な海水準変動変動の復元を複雑にします。ボナパルト湾は大陸氷床から遠い地域にあるため、”ファーフィールド”と呼ばれる地域に該当し、その影響は小さいと考えられています。この研究から、最終氷期最低海水準の期間が従来考えられてきたよりも短いことがわかりました。ボナパルト湾の相対的海水準を復元し、アイソスタシーの効果を地球表層の荷重が変わることにより固体地球の変形を計算するモデル(glacial isostatic adjustment modeling)によって計算することで海洋酸素同位体ステージ2における全球的な海水準変動を復元しました。その結果、全球的な海水準は19.7から19.1 cal kyr BPで最低期を迎え、その前の25.9 から20.4 cal kyr BPにかけて海水準は安定していたことがわかりました。この海水準の安定期の後、全球的に海水準は約千年間で10 m低下し、短期間の最終氷期最終氷期を迎えたことがわかりました。このような短期間の氷床変動は、最終氷期最終氷期において大陸氷床がアイソスタシーの平衡に達していなかった可能性を示しています。

科学雑誌の論文:
Ishiwa, T., Yokoyama, Y., Obrochta, S.P., Uehara, K., Okuno, J., Ikehara, M., and Miyairi, Y., 2021. Temporal variation in radiocarbon pathways caused by sea-level and tidal changes in the Bonaparte Gulf, northwestern Austral. Quaternary Science Reviews v. 266. 10.1016/j.quascirev.2021.107079

Ishiwa, T., Yokoyama, Y., Okuno, J., Obrochta, S.P., Uehara, K., Ikehara, M., and Miyairi, Y., 2019. A sea-level plateau preceding the Marine Isotope Stage 2 minima revealed by Australian sediments. Scientific Reports 9(1) 6449. 10.1038/s41598-019-42573-4

Ishiwa, T., Yokoyama, Y., Miyairi, Y., Ikehara, M., and Obrochta, S.P., 2016. Sedimentary environmental change induced from late Quaternary sea-level change in the Bonaparte Gulf, northwestern Australia. Geoscience Letters 3(1) 2–11. 10.1186/s40562-016-0065-0

Ishiwa, T., Yokoyama, Y., Miyairi, Y., Obrochta, S.P., Sasaki, T., Kitamura, A., Suzuki, A., Ikehara, M., Ikehara, K., Kimoto, K., Bourget, J., and Matsuzaki, H., 2016. Reappraisal of sea-level lowstand during the Last Glacial Maximum observed in the Bonaparte Gulf sediments, northwestern Australia. Quaternary International 397, 373–379. 10.1016/j.quaint.2015.03.032

連続的な堆積をしていない堆積物構造の補正

IODPサイトM0063(459 mbsl)のコア試料は、バルト海の最も深い海盆から採取され、有機物とガスが多く含まれているラミナ層が特徴の堆積物です。掘削作業では、最初のホールで膨張した堆積物の欠損率が高かったため、それ以降は、3.3mのコアのストロークを約2mにし、1m以上の膨張量に対処できるよう、バッファーを設ける掘削作業を行いました。ほとんどのコアは、コアバレル中に完全に堆積物が充填されており、体積膨張が1.5倍以上に達していたことを示しました。コアの最上部1mのガンマ線密度の値は非常に低く、指数関数的に減少している傾向が全体的に認められたので、膨張は主に上端部に限られていると考えられました。また堆積物の磁化率も指数関数的な変化傾向を保持しているので、単純な線形補正による膨張補正は不適切です。本研究では新たに提唱した手法により、ホールM0063C、Dの平均ガンマ線密度のプロファイルを用いて、膨張関数を得ました。それらをコア毎に適用し、深度スケールを実際に記録されているストローク深度までに戻しました。

科学雑誌の論文:
Obrochta, S.P., Andrén, T., Fazeka, S.Z., Lougheed, B. C., Snowball, I., yokoyama, Y., Miyairi, Y., Kondo, R., Kotilainen, A.T., Hyttinen, O., and Fehr, A., 2017. The undatables: Quantifying uncertainty in a highly expanded Late Glacial - Holocene sediment sequence recovered from the deepest Baltic Sea basin - IODP Site M0063. Geochemistry, Geophysics, Geosystems 18. 10.1002/2016GC006697

Related:
Snowball, I., Almqvist, B., Lougheed, B.C., Wiers, S., Obrochta, S.P., and Herrero-Bervera, E., 2019. Coring induced sediment fabrics at IODP Expedition 347 Sites M0061 and M0062 identified by anisotropy of magnetic susceptibility (AMS): criteria for accepting palaeomagnetic data. Geophysical Journal International 217(2) 1089–1107. 10.1093/gji/ggz075

過去数百年間の気候復元

進行中の地球温暖化に影響されている近年の気候変動の詳細な理解は、機器観測に基づいた気候の観測記録の限られた長さによって妨げられています。その為、私たちは樹木の年輪やサンゴの成長輪を間接指標(proxy)をとして利用して、その記録を更にのばしています。この研究では、過去の気候変動を評価し、最近の温暖化ハイエイタス(中断)は、地球の気候現象としては、珍しくないことを明らかにしました。また、本栖湖の試料だけではなく、過去の降水量を樹木のセルロースから復元する研究も行っています。

科学雑誌の論文:
Crowley, T.J., Obrochta, S.P., and Liu, J., 2014. Recent global temperature “plateau” in the context of a new proxy reconstruction. Earth’s Future 2(5) 281–294.

Sakashita, W., Yokoyama, Y., Miyahara, H., Yamaguchi, Y.T., Aze, T., Obrochta, S.P., and Nakatsuka, T., 2016. Relationship between early summer precipitation in Japan and the El Niño-Southern and Pacific Decadal Oscillations over the past 400 years. Quaternary International 397300–306.

Sakashita, W., Yokoyama, Y., Miyahara, H., Aze, T., Obrochta, S.P., Ohyama, M., and Yonenobu, H., 2018. Assessment of Northeastern Japan Tree-Ring Oxygen Isotopes for Reconstructing Early Summer Hydroclimate and Spring Arctic Oscillation. Geochemistry, Geophysics, Geosystems 19(9), 3520–3528. 10.1029/2018GC007634

最終間氷期以前の氷期の変化

DSDPサイト609とIODPサイト1308の統合記録は過去30万年にわたっていて、最後から2番目の氷期中の変動は周囲の2つの氷床の変動とは大幅に異なっていたことを示しています。赤鉄鉱が付いている石英や長石の岩屑は、いわゆる1500年周期として変化していると以前に解釈されましたが、実際の変化は周期的ではありません。この間接指標は、最終氷期(MIS 4 – 2)とMIS 8には、同様に変動をしていましたが、その間に起こったMIS 6には同様の変化はありませんでした。さらに、MIS 6に、ローレンタイド氷床の急激な崩壊(ハインリッヒ・イベント)の岩石的な痕跡(石灰岩やドロマイト岩屑)は見つかりませんでした。一方、一般的な岩屑の濃度は全体的に高く、氷床から淡水が比較的連続的に流入したと考えられました。そのため、深層水形成サイト上の拡大した海氷の比較的弱いイベントに対する熱塩循環の中断感度を増加させた可能性が高いと考えられます。歳差運動と65˚Nの夏の日射量の低下による熱帯や亜熱帯降水量の変化と南極温暖化は、アイスランドの火山岩起源の岩屑片と海氷の拡大と同調した変化をしていました。ヨーロッパと北米の氷床の形状の違いや夏の涼しさをもたらした大きい軌道の離心率の変動は、MIS 6の間のハドソン湾地域のローレンタイド氷床の安定さに貢献しました。

科学雑誌の論文:
Obrochta, S.P., Crowley, T.J., Channell, J.E.T., Hodell, D.A., Baker, P.A., Seki, A., and Yokoyama, Y., 2014. Climate variability and ice-sheet dynamics during the last three glaciations. Earth and Planetary Science Letters 406(0) 198–212. 10.1016/j.epsl.2014.09.004

いわゆる「1500年周期」を理解する

更新世後半から完新世に起こった、突然かつ急激な気候変動は、氷床の周期的な崩壊にともなった、淡水の北大西洋高緯度海域への供給による、熱塩循環の弱化が原因とされています。1990年代に、この変動が約1500年の周期をもつという報告がなされました。深海堆積物コアの岩屑のうち、ノバスコシア地方の酸化鉄が多量に含まれている古生代の堆積岩(レッドベッド)を起源とするものですが、1470年で増減を繰り返していることも明らかになってきました。しかし、堆積物コアの周期の間隔やスペクトル解析には、年代モデルが強い影響を与えるので、1983年に得られたDSDP609の年代モデルを改訂し、最新の放射性炭素補正データと氷床の最新年層モデルを適応し、再解析を行いました。その結果、1000年の周期と同じく2000年の周期が存在するという結果が得られました。1500年の周期が過去1万年のみに限られています。6万年以降から、氷床流動モデルから年代計算されています。モデルの誤差は不明になっているため、エラーが大きい可能性が高い。岩屑イベントの中間点の計測の平均は、やはり約1500年になっていますが、分布表で見ると、再頻値が、1000年と2000年になっていて、「二峰性 」分布となっている。この結果は、1500年周期の存在を完全に否定しました。

科学雑誌の論文:
Obrochta, S.P., Miyahara, H., Yokoyama, Y., and Crowley, T.J., 2012. A re-examination of evidence for the North Atlantic “1500-year cycle” at Site 609. Quaternary Science Reviews 55, 23–33.

Obrochta, S.P., Yokoyama, Y., Morén, J., and Crowley, T.J., 2014. Conversion of GISP2-based sediment core age models to the GICC05 extended chronology. Quaternary Geochronology 20(0) 1–7.

急激な気候変動であるダンスガード・オシュガーイベントの開始時期の解明

科学掘削調査が数多く行われている北大西洋海域ですが、特に、地点DSDP609から得られた記録は、グリーンランド氷床に記録された気候変動の記録と類似していているため注目を集めています。しかし、DSDP609で採取された多くの海洋堆積物コアの記録は過去10万年に限られていました。そこで、国際プロジェクトにより、同地点での連続試料採取が実施され、連続的な記録を300万年まで延長させることに成功しました。もともとグリーンランド氷床に記録されているダンスガード・オシュガーイベントですが、氷の記録も10万年程度しか遡れないため、いつからイベントが開始されたのかという謎に迫ることができません。そこで私たちは、堆積物コアを使った研究を進めています。具体的にはコアラボソフトウェアを用いて、堆積後の色変化が非常に少ない、高解像度の記録を作成し、それらの色と環境変化との対応を議論しながら研究を行なっています。