黒潮は、台湾と南西諸島の南部との間を通り沖縄トラフに沿って流れる、北太平洋亜熱帯循環の西岸境界流で、トカラ海峡から太平洋に流出している。黒潮の変動は、日本全土の気候や漁業に重要な影響を与える。この研究は、新青丸KS-22-4の航海で採取されたピストンコアを使用し、有孔虫安定同位体比を用いて東シナ海の過去の古海洋学を再構築するものである。この研究の目的は、最終的には最終氷期における沖縄トラフの等温グラデーションを再構築することだが、今回の研究では分析したピストンコアの基本的な層序学的情報の確立に重点を置く。放射性炭素年代測定と近傍の堆積物コアとの相関を組み合わせることによって、初歩的な年代モデルを作成した。この年代モデルと酸素同位体データの変化に基づいて、堆積物コアは最終氷期最盛期前後の安定した環境を記録していることがわかる。
Keywords: 黒潮,酸素同位体比,炭素同位体比,年代モデル,浮遊性有孔虫
本共同研究では黒潮の潮流の変動を明らかにすることで、この黒潮の変動が日本においてどのような影響を与えたのか、また、今後与えるのかを人類学的・気候学的・経済学的な視点から考えることを目的としています。そのために、本研究では東シナ海 沖縄トラフ西側で採取された堆積物がどのような環境下でいつ堆積したのかを理解するための層序学的枠組みを確立することを目的として行いました。
酸素同位対比測定、粒度測定の結果として、世界的な気候変動と北半球の気候変動の様子を捉えている事が明らかになりました。また、堆積物コアにおいて1。1万年前に粗粒な堆積物が多く見られ海底において黒潮の流速が一時的に速くなったからではないかと結論づけました。
Keywords: 黒潮,沖縄トラフ,潮流変動,酸素同位体比,気候変動
千葉県房総半島は相模トラフや日本海溝に関連するプレート境界で発生する海溝型地震と津波による影響を繰り返し受けている地域である.2011年に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴う津波を契機に過去の関東地震を解明しようとする動きが活発化し,多くのボーリング調査が行われた
本研究では夷隅川低地で採取されたボーリングコア試料を用いて,房総半島東部における過去の津波発生時期や範囲の特定を行った.いくつもの粗いイベント性砂層が認められたが,津波堆積物とストーム堆積物を区別するためには慎重な検討が必要である.堆積学的解釈,多点放射性炭素年代測定,高精細元素分析により,複数の津波堆積物が特定された.
Keywords: 津波堆積物,相模トラフ,房総半島,関東地震,古環境復元,放射性炭素年代
この研究では, 近年の津波発生の間隔をより詳細にするために, 過去関東地震の歴史記録と, 房総半島館山低地におけるイベント堆積物の地質記録を比較した. 台風による堆積物と区別するために, 最も主要な津波堆積物の特徴は, 遡上流と戻り流れを繰り返してできる多重級化構造である. しかし, 典型的な掘削孔は幅が狭すぎるため, 流向を決定するのに十分な堆積構造を観察することができない.
そのため, “ジオスライサー”として知られている装置で, 地中から幅広く, 定方位であり, さらに連続した堆積セクションの採取が行われた. 斜交層理やカレントリップルのような堆積構造は, 流向を推測するために解釈した. また, 1703年の元禄地震の津波の堆積構造を, それより深いイベント堆積物と比較し考察した. 津波によるものか曖昧な構造を示すイベント堆積物の年代については, 最新の放射性炭素年代測定とローカルリザーバー年代の推定に基づいて再検討する必要がある.
Keywords: 元禄地震, 大正関東地震, ローカルリザーバー効果, 多重級化構造, 館山低地, 形成間隔
グレートバリアリーフ(GBR)はオーストラリア北東部の亜熱帯雨林に隣接して存在するサンゴ礁地帯である. 現在のGBRは地球温暖化に伴ったリーフの白化現象という問題を抱えているが, このようなリーフの変化を私達は短い間隔でしか記録できていない. これから先のリーフ及び周囲の環境変化を予測するためには, GBRの形成史及び発達史を理解する必要がある.
先行研究では, 本研究地域で採掘されたコアから得た酸素同位体比及び陸成の堆積物の割合から, GBRの形成は約850,000年前であると結論づけた. しかし陸成の堆積物の割合は降水量増加の影響を受けている可能性があるため, 本研究では降水量の影響を受けない海成の堆積物の割合をX線回折(XRD)分析によって調べ, 追加分析による現代までの広域なデータを取得することによって先行研究の再検討を行った. その結果, 陸成と海成の堆積物の割合より連動して堆積してることが分かり, 先行研究の結論を支持するものとなった.
Keywords: バリアリーフ, 海進期, 年代モデル, 高マグネシウム方解石, 質量堆積速度
グレートバリアリーフとは,オーストラリア大陸に沿って壁のようなバリア化(バリアリーフ)を遂げた世界最大級のサンゴ礁地帯のことである.本リーフを対象とした研究は多数存在するが,形成年代(バリア化の開始)については,掘削技術の問題や環境的・経済的な問題から確固たる年代特定には未だに至っていない.
そこで,本研究ではグレートバリアリーフ周辺のコア(Hole 1198A)に含まれる浮遊性有孔虫化石から得られた海水準変動,及びに周辺地域の堆積物の割合変化に着目することで,リーフの形成年代の特定を行った.解析及び環境復元の結果,リーフの形成は約850,000年前に起きたという推定がなされた.
近年の世界的な温暖化現象により,世界中のサンゴ礁は死滅の危機にさらされている.そのため,過去のグレートバリアリーフの形成・発達を解明することは,現世の環境変化の解明にも応用できるものと期待できる.
Keywords: 酸素同位体比,酸素同位体ステージ,ユースタシー(海水準変動),バリアリーフ,質量堆積速度
卒論(Miwa 2018BS)では,グレートバリアリーフの形成年代の特定を行ったが,リーフが形成に至った環境,及びに形成のメカニズムの解明までには至っていない.そこで,形成環境や古環境変動を知る上で重要な鍵となるのが,浮遊性有孔虫のMg/Ca測定による古水温変化の復元である. しかし,本地域周辺ではMg/Caの測定データは乏しく,かつ本地域に適した測定手法も不明瞭である.
本研究では,東京大学大気海洋研究所において,浮遊性有孔虫殻に含まれるMg,Ca元素を測定する手法を基礎から開発し,古水温の復元方法についての議論を行った.各測定の結果から,本地域の有孔虫内部には大量の二次的な鉱物が存在することで,古水温の値として異常値が示されることが判明した.
本研究では基礎的な実験を多く行ったが,今後はMg/Caの異常値を他元素から補正する手法の開発や,温度変化の差からの古水温復元,並びに古環境復元を行う必要があると考えられる.
Keywords: グレートバリアリーフ, 年代モデル, 高マグネシウム方解石, 質量堆積速度
卒論(Miwa 2018BS)では,グレートバリアリーフの形成年代の特定を行ったが,リーフが形成に至った環境,及びに形成のメカニズムの解明までには至っていない.そこで,形成環境や古環境変動を知る上で重要な鍵となるのが,浮遊性有孔虫のMg/Ca測定による古水温変化の復元である. しかし,本地域周辺ではMg/Caの測定データは乏しく,かつ本地域に適した測定手法も不明瞭である.
本研究では,東京大学大気海洋研究所において,浮遊性有孔虫殻に含まれるMg,Ca元素を測定する手法を基礎から開発し,古水温の復元方法についての議論を行った.各測定の結果から,本地域の有孔虫内部には大量の二次的な鉱物が存在することで,古水温の値として異常値が示されることが判明した.
本研究では基礎的な実験を多く行ったが,今後はMg/Caの異常値を他元素から補正する手法の開発や,温度変化の差からの古水温復元,並びに古環境復元を行う必要があると考えられる.
Keywords: Mg/Ca,古水温計,有孔虫,グレートバリアリーフ,続成作用