地球環境情報学研究室
野外調査

野外調査

環境情報の掘り起こし

皆さんは”コア“という言葉をご存知でしょうか?日本語では”柱状試料“というもので、文字通り柱の形をしたチューブを地層に突き刺し、採取された試料のことを指します。わたし達の研究室のフィールドワークでは主に海の底や湖の底の地層のコアを採取するために行っています。堆積物は過去の環境変化を連続的に記録しているので、水温変化や海水準、海流の変化などを復元することができます。サンゴ礁に生息するサンゴのコアを取ることもあります。大気の二酸化炭素が増えたり減ったりした時に、地球の環境がどう変化したのかなどを調べることができるのです。海に出かけてフィールドワークをする際には、国内外の研究者との共同研究で大小様々な調査船を使って行います。沿岸のサンプルの場合は小型の船舶、外洋の調査は大型の調査船(東京大学の白鳳丸やドイツのゾンナ号)、より深く長い試料を採取したい時には掘削船に乗って調査を行うこともあります(アメリカのジョイデスレゾリューション号(JR)など)。JRを使って研究を行う場合は、国際共同研究の枠組みである、国際深海科学掘削計画(IODP)の枠組みの中で、国際共同研究として乗船します。採取した堆積物の試料を使って、過去の急激な気候変動がなぜ怒ったのかという研究や、火山噴火史の復元や津波の頻度に関する研究まで、様々な現象を研究対象としています。

フィールド研究の例

白鵬丸航海KH-23-11, 沖縄〜東京(2023年12月〜2024年1月)

この航海は、断続的にリフティングを受ける背弧海盆である南部沖縄トラフで行われました。航海の主な目的は、大陸でのリフティングの初期段階で進行しているプロセスを理解することでした。今回の航海では、黒潮研究のために更にサンプルを採取する機会にもなりました。

新青丸航海KS-22-4、横須賀〜沖縄〜鹿児島(2022年4月)

この航海は、沖縄トラフでピストンコアを採取し過去の黒潮の変化を復元ために行われました。その手法として水温変化を深度別に調べることを目的としています。東西での水温の勾配は、海溝に流れている黒潮の強さを反映しています。また現代の黒潮の変化をよりよく理解するために海水のサンプリングも行いました。

ゾンナ号航海SO256、ニュージーランドのオークランドからオーストラリアのダーウィンまで(2017年4〜5月)

国際海洋掘削計画(ODP)で過去に試料採取されたODPサイト1198地点(海底下数百メートルまで掘削成功)にて、新しく約9メートルの長さのグラビティコア(GeoB22218-1)を採取しました。ODPでは長いコアが取られたのですが、海底に近いごく最近のコアは技術的な問題から採取されていませんでした。今回のサンプリングで初めて記録が過去から現在までつなげることができました。現在グレートバリアリーフの形成年代や形成理由を解明するため、安定同位体、微量元素やX線回折などの複数の手法を用いた研究を、学生さん達と一緒に進めています!

富士五湖掘削、QuakeRecNankai、山梨県(2015年11月)

ベルギーのゲント大学とリエージュ大学、東京大学と国立産業技術総合研究所と共同で2015年に河口湖、西湖、本栖湖からコア採取しました。それ以来、東京大学と共同研究で、定期的に湖から採水し、湖水の循環を調べています。また、本栖湖から得られた湖底堆積物から富士火山噴火史を復元しました。これによって、これまで知られていなかった2回の噴火を初めて明らかにすることができました。

浜名湖の反射法地震探査、QuakeRecNankai、静岡県(2014年10月)

上記の富士五湖研究との関連で静岡県浜名湖の掘削も行いました。コアの採取ポイントを決める時には、湖底の様子をしっかり理解する必要があります。病院のエコー検査と似た方法を使って、2014年に地震波による堆積構造を調べました。南海トラフの地震による津波堆積物を特定するために、堆積物の形状がどうなっているかが明らかになり、現在ベルギーの大学院生らと研究を進めています。

IODP 航海347、(グレートシップマニーシャ号)バルト海古環境(2013、2014年)

北ヨーロッパにかつて存在した巨大氷床の近くに位置し、スカンジナビア半島に面するバルト海の調査を、IODP 航海347に参加することで実施しました。この航海は、2013年に特定任務掘削船(mission-specific platform: MSP)を使って行われました。サンプルはドイツのブレーメン大学にあるコア研究所にて分取され、X線装置を使った集中分析を行いました。これによって国際共同で環境復元を行いましたが、年代決定が難しかったバルト海の堆積物について、データサイエンスの手法を開発し、年代決定を行えるようにしました。

一ノ目潟掘削、秋田県男鹿半島(2013年5月)

L一ノ目潟は水蒸気爆発で形成された円形のかつての火山火口(マール)です。この堆積物には年縞とよばれる縞々がみられます。樹木の年輪のようなものです。これは季節によって、堆積物の成分が変わるために縞々が見られるのですが、これを数えることで、過去の年代をとても正確に決めることができます。また化学分析によって環境復元も行える重要な試料です。

白鳳丸航海KH11-1、オーストラリア・フリーマントル〜静岡県・清水港(2011年1〜2月)

過去の海水準の変化は南極の氷や北米にかつてあった巨大氷床がどのように変化したかを細かく知るために重要な情報です。その研究に適した場所が北西オーストラリアのボナパルト湾です。日本の白鳳丸を使ってこの海域を調査し、かつて陸地であった水深130mから60mまでの水深の海底から試料採取を行い、高精度の海水準を復元しました。その結果、氷床の変化はとても早く、グローバルな気候変動とも密接に関係していることがわかりました。

IODP 航海 303(ジョイデス号)北大西洋古海洋、カナダ〜ポルトガル(2004年9月〜11月)

北大西洋はグローバルな気候変動を議論する時に重要な海域です。世界中を巡る海洋循環のスタート地点なので、この海洋循環が止まったり早くなったりすると、温暖―寒冷な気候を生み出すからです。IODPの303航海は過去の海洋環境変化を復元する目的で実施されました。採取された試料を使った主要研究結果はこれまで相次いで発表され、気候変動をいろいろな角度から解明することができています。秋田大学では、この航海と関連している卒論・修論などが非常に多く、現在も研究が進んでいます。