秋田県は830年天長地震,1694年能代地震,1896年陸羽地震,1914年強首地震といった地震災害を数多く経験しています.また,秋田県内には北由利断層を始めとする多く の活断層があり,地震災害ポテンシャルが高いところです.
 地震災害は,広く捉えれば,地盤災害,斜面災害,津波災害,建築物や諸施設の被害といった災害などを含みます.しかし,本センターでは上述のように細分化し,地震災 害分野では主に岩盤の破壊,地震発生域のテクトニクスといった地学的なことを対象とします.
 地震災害では地質や地盤が関係し,これらの特性評価が重要です.地盤の液状化や土木構造物の被災は我々の日常生活に大きな影響を及ぼします.これらの問題にも将来的には対応できるようにしたいと考えています.



  流体力学の進歩,地震学と地震観測技術の進歩,1970年代後半から1980年代前半にかけての津波数値計算技術の進歩により,津波研究は大きく前進しました.しかし, いまだに発生域・発生時の津波と沿岸・陸上の津波が大きな課題として残っています.津波災害分野では,これらの課題解決のため,海洋レーダや人工衛星により津波発生 を直接的に検知するシステムの開発,沿岸での津波の変形,沿岸・陸上での防災構造物等への流体力,漂流物を伴う氾濫流,漂流物の衝突力,海岸林の津波減勢効果などの 研究を行っています.
 自然災害を完全に防ぐことはできませんが,ハードウェア対策ばかりでなく,正しい知識と適切な対応といったソフトウェア対策で減災することは可能です.津波災害分 野では津波災害に関する知識の普及と啓発も図っていきます.



 近年,台風や梅雨前線に伴う集中豪雨による洪水被害が各地で多発しています.特に,国が管理する大河川より,自治体が管理する中小河川における被害が増加していま す.洪水氾濫災害は越流や波堤によって市街地へ大量の河川水が流れ込むことにより発生しますが,避難しないで自宅において被災する場合が多く見られます.また,高齢 者などの災害時要援護者の被災率も高いです.
 これまでは河川堤防などのハードウェアを中心とした防災が行われてきましたが,堤防が破堤する危険性は絶えず存在し,堤防のどの場所が波堤するかを予想すること も現実的には不可能です.さらに,地球温暖化により台風の発生数は減少するが,一つ一つの規模は拡大すると予想されています.したがって,今後は,従来のハードウェア に加えて,ソフトウェアによる防災をより推進していく必要があります.特に,洪水災害は,地震や津波などに比べると時間的余裕があるため,ハザードマップなどによる 防災教育や適切な防災情報に基づいた避難などが極めて有効であると考えられます.
 このような背景を踏まえて,河川災害分野では,洪水被害を軽減することを目指し,現地調査や数値シミュレーションにより,洪水災害の発生および拡大のメカニズムの解明を行っています.また,ソフトウェアによる防災を支援するため,防災GISと洪水氾濫シミュレーション,モニタリングを連携させた防災情報システムの開発を行っています.



 斜面災害とは,地形から観た斜面で発生する災害現象の総称です.斜面を構成している物質は,長い時間にわたって風化作用や浸食作用を受けて,不安定となり,徐々 にあるいは急激に下方に移動します.その結果,斜面災害は人命や人間社会に重大な影響を及ぼします.斜面災害の具体例として,地すべり・山崩れ・崩壊・土石流・泥流 ・岩屑流・落石などがあげられます.秋田県は,山地や丘陵が多く,地層の生成年代が若くしかも固結度が低く,地質構造が複雑なために,全国的に見ても斜面災害の発 生率は高い県です.しかも地球の温暖化が進めば,集中豪雨型による強雨が予想され,秋田県内ではこの種の災害が今以上に多発することは明らかです.
 皆さんは,斜面災害が発生する度に,「ここの地質は・・・」という言葉を良く耳にするでしょう.地質の把握は斜面災害を解明する上でそれほど大切です.言い換えれ ば,斜面災害における地質学の必要性は誰も疑いません.従来の地質学の研究は成因に重きをおいてきましたが,私達はもう少し視野を広げて,地層や岩石の浸食作用や 風化作用の研究に積極的な取り組みをします.具体的には,斜面災害分野の狙いは,地質学的な調査や考え方を基礎にして,岩盤力学,土質工学,砂防工学などの諸分 野と融合して,本県の斜面災害の予測や軽減を目指すところにあります.



 秋田県には,鳥海山や寒風山などのほか脊梁山脈沿いに,様々な噴出物からなる第四紀火山が分布しています.最近では1997年に秋田焼山が熱水爆発を発生し変質粘土を 噴出しました.これにはマグマ物質が含まれていませんでしたが,典型的な火山噴火ではマグマ物質が噴出します.秋田駒ケ岳1970-71年噴火では溶岩流として流出したり, 火山弾が爆発的に飛散しました.このほか火砕流やそれに伴われる火山泥流のような火山砕屑物が高速で地面を這うこともあります.例えば,平安時代の鷹巣・大館では, 十和田湖の火砕流に伴う火山泥流が家屋を埋めています.同様なものに岩屑なだれもあります.約2500年前に鳥海山の山体が大規模に崩壊して土砂が現在の日本海沿岸にま で達しました.
 このように様々な噴火によって形成されてきた火山が今後どのような活動や災害を引き起こすかを知ることは,防災にとって不可欠な事柄です.直前的な予測は避難や応急 的な防災対策に役立つのに対して,中長期的な予測は,より計画的な対策をたてる上で重要だと言われています.前者に関連するものとして,火山性の地震や山体の膨張など の前兆現象があります.マグマが火口近くまで上昇してくる間に引き起こされる現象です.これに関連する秋田大学の地球物理学の研究者とも連携していきます.中長期的 な予測に関連する課題としては,県内の火山について,より正確な噴火記録をまとめ,地質調査によって,噴火様式や噴出物の規模の特徴を明らかにすることがあげられ ます.こうした基礎データから,災害予測図をはじめ,今後起こりうる噴火を予測できるようなものにしていくことを目指しています.
 南米コロンビアのネバドデルルイス火山1985年の火山泥流では,災害予測図ができていたにもかかわらず多くの犠牲者が出ました.このことは,火山の知識や火山情報の 伝達が重要であることを示唆しています.このことから,火山の知識の普及もすすめていく必要があります.



 災害による被害をできるだけ回避し,最小限にとどめるためには,災害のあらゆる状況に備えた事前の計画と,対応のための実施訓練が必要です.計画分野では,災害 時にも対応することのできる,冗長性を有した社会基盤施設の整備方策や,地域コミュニティにおいて,災害時要援護者も安心して生活することのできる自助・共助の仕 組みについて研究しています.