主な研究内容 Research Interests

 物質科学および地質学的手法による火山現象の解明(大場 司)
Mineralogical and geological studies to elucidate volcanic phenomena(T. Ohba)

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 マグマ溜まりでの物理化学的素過程の研究(星出隆志)


     

 物質科学および地質学的手法による火山現象の解明(大場 司)


1.物質科学的研究 
1-1.熱水系卓越火山における水蒸気噴火・マグマ水蒸気噴火噴出物の研究 

 多くの沈み込み帯火山において,水蒸気噴火やマグマ水蒸気噴火に関わる水蒸気は,火山直下の熱水系に由来する.火山噴出物中に含まれる熱水変質物の物質科学的研究から,噴火に関与した熱水系の深度・温度・化学的状態などを知ることが出来る(大場, 2012; Ohba and Kitade, 2005). これまでに1997年秋田焼山噴火(Ohba et al., 2007), 御嶽山2014年噴火(Imura et al., 2014), 十勝岳1926年噴火噴出物の他(Imura et al., 2015),各地の古い噴出物(Ohba and Kitade, 2005; Imura et al., 2015)についてそれらの条件を決定している.

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(図1)2014年9月27日の御嶽山噴火による火山灰の調査.火口より6km地点にて葉の上に堆積した火山灰を採取中

1-2.結晶組織から見たマグマ混合の素過程とマグマ滞留時間 

 岩石学的手法により,火山直下のマグマプロセスの解明を行っている.特に結晶組織の観察と組成累帯(石英中のチタンや苦鉄質鉱物中の鉄・マグネシウム)に着目した研究を行っている.東北地方の火山が主要なフィールドであり,下北半島薬研カルデラ(戸田ほか,2014),八甲田山(Ohba et al., 2009; 小松・大場,2014),八幡平(Ohba et al., 2007), 鳥海山(Ohba et al., 2014)について調査を実施した.最近は,インドネシアの火山について研究を開始しており,ジャワ島西部の調査を進めている.結晶組織からマグマ混合素過程を解読する試みを,鳥海山,八甲田,それにジャワ島西部の複数の火山にて行っている.また,薬研カルデラ起源の凝灰岩中の石英についてTiの累帯構造解析を行い,これにより珪長質マグマへのマグマ再注入から噴出までの滞留時間を決定することに成功している.これらの岩石学的研究には,XRFによる全岩分析に加え,SEM/EDS,EPMA,CLを用いている.

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(図2)斜長石の波動累帯構造.BSE像.

2.地質学的手法 
2-1.ラハールの堆積機構 

 鳥海火山の北麓を主たる対象地域として地質調査を実施し,ラハール(火山泥流・土石流)の堆積機構および距離に応じた積層相の変化を明らかにした(南ほか,2015).この地域に発達する火山麓扇状地の微地形がラハールの堆積相と関連する.さらに,堆積物の基質構成物を基に,ラハールには「砂質」と「粘土質」の2種類に分類できることを見いだした.これらのうち粘土質なラハールは,火山体に発達する熱水変質帯と強く関係していると考えられる.他の火山のラハール堆積物についても調査を行っており,最近はインドネシア・チリなど国外のラハール堆積物にも注目している.

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(図3)チリ,アンデス山脈プリコ火山群におけるラハール調査.

2-2.活動的火山における爆発的噴火の履歴 

 活火山においては,AMS年代測定や記載岩石学と併せ,地質調査を基に火山活動史が解明が行われる.鳥海山の湿原堆積物中に狭在する火山灰の調査から,過去4000年では,平均約80年の間隔で噴火が繰り返していることが明らかとなった(大場ほか,2011).

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(図4)活火山周辺に堆積した火山灰の調査.

2-3.カルデラ火山の形成過程 

 カルデラ由来の火山砕屑性堆積物について,層序,地質構造,記載岩石学的調査を行い,カルデラ形成過程を解明する試みを行っている.これまで,宮城県北部のカルデラアウトフロー堆積物,青森県薬研カルデラ(戸田ほか,2014)と秋田県三途川カルデラ内(大木・大場,2014)のカルデラ内火山砕屑性堆積物の調査を行っている.

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(図5)三途川カルデラにおける地質調査風景.


 マグマ溜まりでの物理化学的素過程の研究(星出隆志)


 活火山や中央海嶺の地下に存在する「マグマ溜まり」は地表に噴出するマグマの性質を決める最も重要な場の一つであるにもかかわらず、私たちはそこで起こる現象を直接観察することができません。地下深部でマグマが冷却・固結しその後地表に露出した「深成岩体」は、いわば「マグマ溜まりの化石」であり、マグマ溜まりの空間プロセスを直接明らかにできる格好の対象です。とくに私たちは、玄武岩質マグマが固化してできた「斑れい岩体」を対象に、主に岩石組織観察と岩石・鉱物の化学組成分析から、マグマ溜まりで起こる物理化学的プロセスを明らかにしようとしています。現在は、具体的に以下の2つのテーマで研究を進めています。

1. Igneous layering(縞状構造)の成因~層状貫入岩体の研究~ 
 Skaergaard IntrusionやBushveld Complexなどの層状貫入岩体や岩床には、鉱物の種類・量比・化学組成などが変化することでできる縞状構造(図3)が発達していることがあります。こうした縞状構造は、マグマが結晶化していく際に起きた物理化学的素過程を反映しており、縞状構造の研究からはこれまでにさまざまな素過程が見い出されています。
 国内外の貫入岩体を対象に、岩石学・地球化学的な研究によりマグマ溜まりで起こるプロセスを考察します。

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(図3)付加体である四万十帯にシル状に貫入した高知県・室戸岬斑れい岩体に発達する縞状構造(layering)。白色層は斜長石に富み、黒色層はかんらん石に富む。

2.東太平洋中央海嶺ヘス・ディープ海洋地殻下部斑れい岩の層状構造・不均質組織の成因
 2012年12月~2013年2月にかけて、東太平洋中央海嶺近傍のヘスディープ海盆(中米コスタリカ沖)で実施されたJoides Resolution号(図4)によるIODP第345次研究航海にIgneous petrologistとして参加しました(図5)。本航海で採取されたコアの岩石学的研究を現在行っています。

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(図4)米国の深海掘削船・Joides Resolution号

(図5)Joides Resolution号の船内で、採取された斑レイ岩コアを観察する様子。

 海洋地殻が誕生する場である中央海嶺の下のマグマ溜まりについて、これまでに様々な内部構造モデルが提唱されています。しかし、現在最も有力な「複合的マグマ溜まりモデル」(図6)では、海洋地殻断片とされるオフィオライトの斑れい岩に普遍的に発達する層状構造(layering)を持つ斑れい岩の成因が統一的に説明されていません。そのような状況の中、2012年の統合国際深海掘削計画(IODP) Exp.345航海での海底掘削により、史上初めて海洋地殻下部岩石の直接採取に成功し、層状構造を持つ斑れい岩と不均質組織を持つ斑れい岩が得られました(図7;Gillis et al., 2014 Nature)。当研究室では、同斑れい岩の岩石学・地球化学的研究から層状構造や不均質組織の形成におけるマグマ混合の重要性を検討し、中央海嶺における統一的なマグマ溜まりモデルを描くことを目指し、国内外の研究機関と協力して研究を進めています。

(図6)複合的マグマ溜まりモデル。層状構造の存在は考慮されていない。(Shinton and Detrick, 1992を改変)

(図7)ヘス・ディープ海盆で採取された斑れい岩(Gillis et al., 2014)。