研究内容

 私たちの研究室では、様々な病気から体を守っている免疫系を構成する多くの細胞群のうち、抗体を作る機能を持つ唯一の免疫細胞であるB細胞の分化や活性化の分子機構に焦点を当てて研究を行っています。言い換えると、B細胞の分化・活性化に重要な分子を発見し、その分子がどのように働いているのかを明らかにしようとしています。


記憶B細胞の生成と維持・活性化を制御する分子機構の解明

 インフルエンザや種々のウイルスの感染に対する正常な防御や、効果的にワクチンが働くためには、初回感染時やワクチン接種時に記憶B細胞が正常に生成され、生体内で維持されることが重要であることが知られています。

 これまでの多くの研究により、記憶B細胞はリンパ組織内に形成される胚中心と呼ばれる領域で主に生成されることが明らかとなっています。しかし、どのような分子メカニズムで胚中心B細胞が記憶B細胞へと分化し、性質を変えるのかという点については不明な点が多く残されています。私たちは、従来よりこの点に着目して、胚中心におけるB細胞の分化について分子レベルで検討を行ってきました(Publication list 文献1, 4)。その結果、B細胞が抗原を認識する抗原受容体(BCR; B cell receptor)からのシグナルを調節する分子群が胚中心B細胞の分化に非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。そこで、私たちは、これまでに、まだ知られてないBCRシグナル調節分子が存在しているのではないかと考え、その分子を探すことにしました。

 これまで、BCRシグナルを調節する分子の研究のほとんどは、生成直後のナイーブB細胞が発現しているIgM型のBCRを持っている細胞を用いて行われてきました。私たちは、この点に着目し、従来のアプローチとは異なり記憶B細胞が特徴的に発現しているBCRであるIgG型のBCRを有する細胞でのみ発現しているシグナル分子の検索を行いました。その結果、IgM型BCR陽性のナイーブB細胞では発現しておらず、IgG型BCR陽性のB細胞でのみ発現しており、記憶B細胞の再活性化に非常に重要な役割を果たしている分子を見出すことに成功し、現在、その機能について詳細に解析を行っています。今後は、この分子を欠失した細胞やノックアウトマウスを用いて生体内における、この分子の役割を明らかにする計画です。


自己免疫疾患における自己反応性B細胞の生成機構の解明と治療薬開発

 全身性エリテマトーデス(SLE)やその他の、いわゆる自己免疫疾患と呼ばれる病気の多くにおいては、本来、免疫系の攻撃対象ではない自分の体の構成成分を攻撃する抗体が血液中につくられていることが知られています。

 これまでは、多くの種類の免疫細胞のうち、免疫系の活性化を制御する細胞であるT細胞の異常な活性化が病気の引き金になっていると考えられ、多くの研究が行われてきました。しかし、近年の医療技術の発達により、自己免疫疾患の患者からB細胞を除去すると病態が改善することがあるということが知られるようになってきており、自己免疫疾患においてはT細胞のみならず、自己を攻撃する抗体を作っているB細胞も病態形成に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあります。しかしながら、B細胞がどのような分子機構で自己を攻撃する抗体をつくるようになってしまうのか、また、本来であれば体の中から取り除かれるはずの、これらの細胞がなぜ生き残ることができるのか?という大きな問題は未解決のまま残されています。

 さらに、体にとって不都合な自己反応性の抗体をつくるB細胞だけを体から選択的に取り除く方法はまだ確立されておらず、現状では、生体防御を担っている正常なB細胞を含めて、全てのB細胞を取り去ってしまうため体全体の免疫力が一時的に著しく低下してしまうという問題も指摘されています。

 私たちは、ヒトSLEのモデルマウスを用いて、自己反応性のB細胞がどのように生成され生き残ってしまうのか、また、それらの細胞を他の正常なB細胞と区別して取り除く方法はないのか?という疑問点に着目して研究を進めています。


アレルギー疾患に関わるB細胞の活性化調節機構の解明

 近年、スギ花粉症に代表されるアレルギー疾患は大きな社会問題となっています。一方で、多くのアレルギー疾患の根治療法は研究の途上にあり、その開発が待たれています。

 これらのアレルギー疾患の多くは、IgE型の抗体の異常な産生が発症の引き金になっていることが広く知られていますが、なぜIgE型抗体が過剰に作られるようになってしまうのかという分子メカニズムについては不明な点が多く残されています。これまで、この点にアプローチする研究の多くはB細胞の活性化を制御するヘルパーT細胞の活性化異常に着目して行われてきており、大きな成果を挙げてきました。

 私たちは、T細胞のみならず、IgE抗体を産生するB細胞の観点からアレルギー治療薬を開発できないか?という考え方に基づき研究を進めています。一方で、体の中に存在する全B細胞に占めるIgE陽性B細胞は1%にも満たないことが知られており、この点がIgE型抗体を産生するB細胞の解析に大きな障害となり研究の進展を阻んできました。そこで、私たちは、この点を乗り越えるためにごく少数のIgE陽性B細胞を検出する方法を開発しつつ、これらの細胞を選択的に除去する方法の開発を試みています。


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