多くの沈み込み帯火山において,水蒸気噴火やマグマ水蒸気噴火に関わる水蒸気は,火山直下の熱水系に由来する.火山噴出物中に含まれる熱水変質物の物質科学的研究から,噴火に関与した熱水系の深度・温度・化学的状態などを知ることが出来る(大場, 2012; Ohba and Kitade, 2005). これまでに1997年秋田焼山噴火(Ohba et al., 2007), 御嶽山2014年噴火(Imura et al., 2014), 十勝岳1926年噴火噴出物の他(Imura et al., 2015),各地の古い噴出物(Ohba and Kitade, 2005; Imura et al., 2015)についてそれらの条件を決定している.
岩石学的手法により,火山直下のマグマプロセスの解明を行っている.特に結晶組織の観察と組成累帯(石英中のチタンや苦鉄質鉱物中の鉄・マグネシウム)に着目した研究を行っている.東北地方の火山が主要なフィールドであり,下北半島薬研カルデラ(戸田ほか,2014),八甲田山(Ohba et al., 2009; 小松・大場,2014),八幡平(Ohba et al., 2007), 鳥海山(Ohba et al., 2014)について調査を実施した.最近は,インドネシアの火山について研究を開始しており,ジャワ島西部の調査を進めている.結晶組織からマグマ混合素過程を解読する試みを,鳥海山,八甲田,それにジャワ島西部の複数の火山にて行っている.また,薬研カルデラ起源の凝灰岩中の石英についてTiの累帯構造解析を行い,これにより珪長質マグマへのマグマ再注入から噴出までの滞留時間を決定することに成功している.これらの岩石学的研究には,XRFによる全岩分析に加え,SEM/EDS,EPMA,CLを用いている.
鳥海火山の北麓を主たる対象地域として地質調査を実施し,ラハール(火山泥流・土石流)の堆積機構および距離に応じた積層相の変化を明らかにした(南ほか,2015).この地域に発達する火山麓扇状地の微地形がラハールの堆積相と関連する.さらに,堆積物の基質構成物を基に,ラハールには「砂質」と「粘土質」の2種類に分類できることを見いだした.これらのうち粘土質なラハールは,火山体に発達する熱水変質帯と強く関係していると考えられる.他の火山のラハール堆積物についても調査を行っており,最近はインドネシア・チリなど国外のラハール堆積物にも注目している.
活火山においては,AMS年代測定や記載岩石学と併せ,地質調査を基に火山活動史が解明が行われる.鳥海山の湿原堆積物中に狭在する火山灰の調査から,過去4000年では,平均約80年の間隔で噴火が繰り返していることが明らかとなった(大場ほか,2011).
カルデラ由来の火山砕屑性堆積物について,層序,地質構造,記載岩石学的調査を行い,カルデラ形成過程を解明する試みを行っている.これまで,宮城県北部のカルデラアウトフロー堆積物,青森県薬研カルデラ(戸田ほか,2014)と秋田県三途川カルデラ内(大木・大場,2014)のカルデラ内火山砕屑性堆積物の調査を行っている.
活火山や中央海嶺の地下に存在する「マグマ溜まり」は地表に噴出するマグマの性質を決める最も重要な場の一つであるにもかかわらず、私たちはそこで起こる現象を直接観察することができません。地下深部でマグマが冷却・固結しその後地表に露出した「深成岩体」は、いわば「マグマ溜まりの化石」であり、マグマ溜まりの空間プロセスを直接明らかにできる格好の対象です。とくに私たちは、玄武岩質マグマが固化してできた「斑れい岩体」を対象に、主に岩石組織観察と岩石・鉱物の化学組成分析から、マグマ溜まりで起こる物理化学的プロセスを明らかにしようとしています。現在は、具体的に以下の2つのテーマで研究を進めています。