秋田大学 理工学部 生命科学コース 生物機能分子合成化学 研究室 本文へジャンプ
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イワヒバ由来ポリフェノール天然物セラジネリンAとSの全合成
Total Synthesis of Selaginellins A and B, Natural Polyphenols from the Spike Moss Genus Selaginella

Figure of Selaginellins A and S
 セラジネリンAはシダ植物のイワヒバ Selaginella tamariscina から単離されたポリフェノール天然物です。ビフェニル骨格の2位にフェノールの置換したキノンメチドが接続し、3位に4-ヒドロキシフェニルエチニル基が接続した、立体的に込み入った構造が特徴です。セラジネリンSは、同属のシダ植物 S. pulvinataS. moellendorffii から単離された類縁体です。キノンメチドの代わりにケトンが存在するため、構造が幾分単純化されています。
 私達はセラジネリン類の特異な構造に興味を持ち、その最初の全合成を計画しました。しかし、立体的な混み合いを克服して骨格を構築することが大きな課題になりました。そこで、Diels-Alder反応と脱水素的芳香環化によるビフェニル骨格の構築、および、付加-脱離反応によるフェノール置換キノンメチド部の構築を基本として、その各段階の反応の順序を工夫して、セラジネリンAとSの世界で最初の全合成に成功しました。フェノールの置換したキノンメチドを持つセラジネリン類はpH感受性の色素として機能することが報告されていますが、合成したセラジネリンAでもそれを確認できました。

Color Changes of Selaginellins A and S

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変形菌由来ジベンゾフラン天然物ケホコリンAとBの全合成
Total Synthesis of Kehokorins A and B, Natural Dibenzofurans from the Myxomycete Genus Trichia

Figure of Kehokorins A and B
 ケホコリンAは変形菌トゲケホコリ(Trichia favoginea var. persimilis)から単離された癌細胞増殖抑制作用を持つ天然物です。3個のベンゼン環が直線的に連なるパラ-ターフェニル骨格を持ちますが、その2つのベンゼン環が1つの酸素原子を介して結合してジベンゾフランを形成していることが構造上の特徴です。さらに、ジベンゾフランの末端にL-ラムノースが結合していることも大きな特徴です。トゲケホコリからL-ラムノースを持たないケホコリンBも単離されているので、菌体内でケホコリンBからケホコリンAが生合成されていると推定されます。
 私達はケホコリン類の独特な構造に興味を持ち、全合成を検討しました。ケホコリンAは既に理研の高橋俊哉先生により最初の全合成が報告されていますが、私達は異なる経路で全合成を計画しました。その結果、鈴木カップリングと分子内Ullmannエーテル合成でジベンゾフラン骨格を構築した後、再度鈴木カップリングでケホコリンBの骨格を合成し、最後にラムノース部をグリコシル化する経路でケホコリンAを全合成することに成功しました。世界で2番目の合成例です。

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貝毒ペクテノトキシン2の全合成
Total Synthesis of Pectenotoxin-2

Figure of Pectenotoxin-2
 ペクテノトキシン2は渦鞭毛藻 Dinophysis fortii が生産する下痢性貝毒です。これは細胞骨格のアクチンファイバーに作用して、がん細胞の増殖も強く抑制します。そのため、がんの化学療法の観点から、その作用メカニズムに興味が持たれています。しかし、生産量が少ないため、調査の進展は遅遅としています。化学合成による物質供給も検討されて来ましたが、これは図のような特異で複雑な構造を持つため、合成法の開拓は困難でした。
 しかし、つい最近、私達の研究グループはペクテノトキシン2の全合成に成功しました。合成したペクテノトキシン2も強力ながん細胞増殖抑制作用を示すことが確認されています。この研究で開拓した合成法を利用すれば、少しずつ構造を変えた人工類縁体を多種類合成できるので、それらの活性強度を比較して活性発現に必要な構造要因を解明できると期待されます。そして、新たな制癌剤の開発につながる可能性があります。(北海道大学理学研究院・鈴木孝紀先生のチームとの共同研究)

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殺がん細胞活性パラ-ターフェニル天然物の全合成
Synthesis of Cytotoxic p-Terphenyl Natural Products

Figure of p-terphenyl natural products
 テレファンチンOはバイアリニンA/テレストリンAと共に青森県産のキノコ・ボタンイボタケ (Thelephora aurantiotincta) から単離された殺がん細胞活性を持つ天然物です。3個のベンゼン環が直線的に連なるパラ-ターフェニル骨格と、その中央のベンゼン環の6個の炭素全てに置換基を持つこと、隣接する2つのフェノール性水酸基を持つことが構造上の珍しい特徴です。
 イボタケ類は中国の雲南省のある地域では食されています。また、これらパラ-ターフェニル天然物は通常の細胞には毒性を示しません。従って、これらは、がん発症リスクを低減する機能性食品成分として期待されます。そこで、単離者の青森県立保健大学の乗鞍敏夫先生と松江一先生と共同で、これらパラ-ターフェニル天然物の殺がん細胞活性発現の機序解明と機能性食品成分としての可能性を探るため、テレファンチンOとバイアリニンA/テレストリンAの全合成およびこれらの人工類縁体の合成を検討しました。
 その結果、これら天然物の簡便全合成に成功し、さらにフェノール部を改変した様々な類縁体の合成にも成功しました。青森県立保健大学におけるこの人工類縁体を用いた生物学的研究により、パラ-ターフェニル骨格上の隣接する2つのフェノール性水酸基と鉄イオンのキレーション(配位結合)が殺がん細胞活性発現に必須なことが明らかになりました。現在、活性発現機序の詳細を解明するため、さらなる検討が続けられています。(北海道大学理学研究院・鈴木孝紀先生のチームと青森県立保健大学・乗鞍敏夫先生と岩井邦久先生のチームとの共同研究)

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シガトキシン3Cの全合成研究
Studies toward Total Synthesis of Ciguatoxin-3C

Scheme of Synthetic Plan for Ciguatoxin-3C
 シガトキシン3Cは、熱帯~亜熱帯のサンゴ礁海域にしばしば起こる、「シガテラ」という魚類の毒化現象の原因毒の1つとして、渦鞭毛藻 Gambierdiscus toxicus の培養株から単離されました。シガテラは食物連鎖 (藻~草食魚~肉食魚) を経て普段は食用とされる魚類にも起こり、それを摂食した人間が温度感覚障害などの重篤な神経障害を起こすため、該当地域ではシガテラが深刻な社会問題になっています。
 一方、これまでのシガテラ中毒の予防・治療のための研究では、必要な毒素の供給に難がありました。毒魚や渦鞭毛藻から毒素を純粋に取り出すことは可能ですが、シガテラ毒を多く含む毒ウツボを4トン用いても類縁体のシガトキシン1Bを 0.35 mg しか取り出せないほど、天然に存在する毒素がわずかなことが障害でした (他方、この量で大規模な中毒を起こせるほど、シガトキシン類の毒性は強力です)。
 現在は、長い苦労の末、シガトキシン類が化学合成可能になり (東北大・平間グループ、名古屋大・磯部グループ)、シガテラの研究に提供されるようになりました。しかし、シガトキシン類は複雑な構造を持つため、合成は容易ではありません。シガテラの予防と治療の研究の進展のため、より良い合成法に進化させる必要があります。
 当研究室では、シガトキシン3Cを対象に、全合成を検討しています。これまでに、13個の環状エーテル (AからMまで記号が付いています)のうち、AB、EF、I、L環のそれぞれの合成法を確立しました。これらの部品をつなぐ方法にも目処がついており、これから全体を組み立てる作業に入るところです。シガテラ研究の一助になるような全合成が完成するよう、努力を続けています。(北海道大学理学研究院・鈴木孝紀先生のチームとの共同研究)

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ニグリカノシドAジメチルエステルの全合成研究 
Studies toward Total Synthesis of Nigricanoside-A Dimethyl Ester

Nigricanoside-A Dimethyl Ester
 ニグリカノシドAは、ドミニカ産の緑藻ハウチワ属 Avrainvillea nigricans からジメチルエステルとして単離された天然物です。細胞の有糸分裂を強く阻害することから、新たな抗がん剤のリード化合物として興味を集めています。その化学構造は、基本単位が葉緑体の膜成分のモノガラクトシルジアシルグリセロールと同じですが、脂肪酸鎖間および脂肪酸鎖とガラクトース間がエーテル結合で結ばれ、グリセロールと脂肪酸鎖間がエステル結合していないため、これまでに無い新しいものになっています。
 当研究室ではニグリカノシドAの特異な構造と強い生物活性に興味を持ち、この化合物のジメチルエステルの全合成研究を企画しました。当初、この化合物は絶対立体配置が解明されていなかったため、現在までに相対立体配置が既知のガラクトース部とその近隣の2個の不斉点を含む部分構造についてモデル合成し、その部分の相対配置を予測しました。同時に、下部脂肪酸鎖とガラクトース間のエーテル結合部の形成法の確立という、全合成上意義ある結果も得ています。
 最近、別の研究グループによりニグリカノシドAジメチルエステルが全合成され、絶対配置が決定されましたが、上記の部分立体構造は我々の予測と一致する結果でした。
 現在、独自の合成法を開拓中であり、より効率的な全合成を目指しています。(北海道大学理学研究院・鈴木孝紀先生のチームとの共同研究)

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Laboratory of Synthetic Bioorganic Chemistry