研究の詳細

リアルオプション分析を用いた資源開発投資の経済性評価

 従来のNPVやIRR等の指標によるプロジェクト投資の評価では、生産物価格等の採算に大きく影響を与える条件が固定化されて評価されている。しかしながら実際には、それら経済状態は将来的にさまざまに変化する不確実性を伴っており、加えて、企業経営的には変化した状況に合わせた対応がとられる経営の柔軟性(オプション)を保有している。リアルオプション分析は、このような意思決定時の不確実性と経営の柔軟性を考慮した価値評価を行う手法である。
 一方で、実際の鉱山開発プロジェクトの投資では、段階的に投資されることが通常であり、これはコンパウンドオプションと呼ばれるが、しかしながらその計算手法には改良の余地が残されている。本研究では、モンテカルロシミュレーションによるSSA法を拡張し、コンパウンドオプションを評価する多段階SSA法を提案してきた。また、より鉱山開発に適用させるため、資産数を複数にした分析および埋蔵量に関する地質学的な不確実性をアルゴリズムに組み込む試みを行っている。
 さらに、わが国の貴重な鉱物資源として注目されている海洋の深海底鉱物資源の開発を対象に、リアルオプション分析の適用を行っている。また、技術開発による発電コスト低減効果を組み込んだ太陽光発電導入拡大への投資についても適用し、投資のタイミングと条件について提言を行った。

鉱物資源の長期グローバルモデルの開発

 鉱物資源は、エネルギー同様に社会経済の基礎投入物である。本研究では鉱物資源を対象として100年以上にわたる長期的な需給をモデル化し、資源の希少性と供給の持続可能性の評価を行うことを目的とする。
 鉱物資源の持続的な供給問題の1つは、特定の資源自体の持続的な供給に不安があるというものである(1)。資源量の減少、鉱石の品位低下、それに伴うエネルギー消費の増加、限定的なリサイクルといった持続的な供給に関する問題が、近年の資源ブームを機に再考されるようになってきた。この問題に分析・対処する手段として、長期的な需給予測は重要な役割を果たす。しかし鉱物資源の持続性に関して、鉱物資源の需給を、資源の開発から製品製造、使用、廃棄、リサイクルというライフサイクル全般を見渡したシステムモデルの検討はほとんどなされていないのが現状である。本研究では過去の長期推移データを基礎として、現在から100年を期間とする長期の鉱物資源需給モデルの開発を進めている。

金属資源市場の需給と価格モデルの開発

 近年の資源価格の高騰と急落は社会問題としても取り上げられてきた。ガソリン価格や金属価格などの資源価格の高騰が、一般消費者の生活に大きな影響を与えたのは記憶に新しい。その後、金融危機の影響を受け一度は反落したものの、2009年に入り銅や亜鉛、アルミニウム、鉛などは再び価格が高騰して過去最高の水準を経た後、大幅に急落してきている。
 この様な状況において、新しい局面に入った金属市場の性質を的確に把握するためには、市場構造を示す経済指標を整理し、それをもとに状況判断を行うことが必要不可欠である。しかし、これまで金属市場について経済指標を分析した例は少なく、特にここ数年の金属価格高騰の動きについての分析はなされていない。そのため、金属市場に関しては感覚的な説明を生み出してきており、パニックの遠因になってきたと考えられる。今後の価格動向を検討するうえでも、金属市場構造をとらえた価格と需要のモデル化と各種経済指標を計測することは不可欠である。
 特に銅市場においては、近年の価格高騰はBRICsをはじめとする需要の増大に起因するとの見解が多い。しかし、需要の増大に関しては価格高騰期に急激に起こったわけではなく、過去よりほぼ一様に増大し続けてきている。つまり、価格高騰の前後の期間で、需要の増大が価格に寄与する度合いがどれほど変化してきているかを知る必要がある。これらの関係性を正確に捉えるためには、実証モデルと経済指標をもとにした定量的な説明が必要となる。
 そこで、本研究では新局面における価格のモデル化を目指し、銅市場構造を把握するために価格モデルの構築、価格と需要の関連性を表現するモデルと経済指標の導出、ならびにモデルを通じて市場構造の変化を実証的に分析した。

鉱物資源開発における環境影響指標の改善

 さまざまな製品の素材となる金属地金の環境負荷は、下流の産業のインベントリに最後まで影響を与えるため、十分な精度をもって確定することが必要とされる。しかし、これまでは非鉄金属やレアメタルの鉱山段階の環境負荷は十分に把握されてこなかった。そのためには、鉱石の採掘から製錬までのインベントリを充実させることが不可欠である。安達研究室では、これまで鉱山の費用推定システムからエネルギー消費量とCO2排出量を推定するシステムの開発に取り組んできた。これに加えて、資源採掘時に大量に発生する廃棄物(ズリ、尾鉱)のデータを推定し、TMRと呼ばれる金属生産の隠れたフローの算出、および酸性坑廃水の処理によって発生する沈殿物量の推定モデルの開発を行っている。これらの、要素を定量的に捉えることで、鉱物資源開発における総合的な環境負荷を算出することを試みている。