角閃石とマグマ化学進化

Itano et al. (2021) Lithos

地球は太陽系の中でも花崗岩質な地殻を有する唯一の惑星です。この花崗岩を含む地殻岩石の形成には、水を含んだマグマの形成と化学進化が必要不可欠となります。角閃石 という鉱物は水を結晶の中に取り込んでおり、角閃石の振る舞いは含水マグマの化学進化を支配すると言えます。日本をはじめとしたプレート沈み込み帯 の火山から、マグマから角閃石が分離することは化学進化の重要な要素であることが報告されてきました。一方、対となるはずの角閃石が分離・濃集した構成物は地殻深部に存在することが想定されるものの、その形成環境や形成過程はこれまで十分理解されてきませんでした。 金沢大学・板野敬太博士研究員(石県金沢泉丘高校出身)・森下知晃教授の研究グループは、上記の研究課題の解決を目的に、白山市尾添に露出する角閃石に富む超苦鉄質岩石 の岩石学的研究を行いました。化学分析から、地殻深部(20-30 km)で超苦鉄質岩石が形成されたことが分かり、地殻深部で角閃石が効率よく形成されていたことが明らかになりました。この岩石の形成時期は飛騨帯の花崗岩活動と整合的だと考えられてきましたが、化学組成の関係からも成因的関係が新たに示唆されました。これら2点より、白山市に産する超苦鉄質岩石は地殻深部で起きる化学進化プロセスの物質学的な証拠の1つとして考えられます。今後世界中に報告されている同様の岩石と比較していくことで、地殻の形成・進化過程のさらなる理解に貢献することが期待されます。本研究は日本学術振興会(科学研究費助成事: JP19J00913)と白山手取川ジオパーク学術研究事業(2019-2021年度)のサポートを受けた研究成果です。本成果は9月8日付の学術雑誌Lithosにオンライン掲載されました