P2 直前の2024-25年冬季についてその特徴をまとめると、気象庁の解説資料「冬(12〜2月)の天候」には、 「北日本では1月に寒気の影響が弱く,気温がかなり高かった半面,冬型の気圧配置が強まった時期(12月や翌2月下旬)には所により大雪となり,降水量も多かった.」とあり、東北地方などで見ると一冬を通じて平均した気温は平年より高かったものの,降雪量は北日本日本海側では平年並みでした。 2024-25年冬季の大雪事例に注目すると、2024年12月〜翌1月には三八地方を除く青森全県や秋田県北で大雪となったほか,2025年2月上旬には北海道の帯広で12時間降雪量が1mを超える豪雪となりました。 こうした大雪事例がどの程度のものであったのか、またその時の積雪密度はどの程度であったか、関心がもたれますが、定常的な積雪観測の大半は積雪深計のみによるもので,積雪重量の観測はごく少数に限られており、積雪密度の季節変化等を分布も含め観測的に得ることは難しい状況です. そこでルーチン気象データから積雪分布モデルを使って、積雪水量の時空間分布を調べる方法で、2024-25年冬季の客観的な雪の多い少ないの分布や、大雪時の雪の密度について調べました。 P3 今回使用した気象データはアメダス地点の日々の平均・最高・最低気温、降水量、平均風速、日照時間と気象官署(気象台+旧測候所)の日平均気圧と水蒸気圧です。また積雪分布モデル内での標高や赤外放射・アルベドの考慮のため、標高および土地利用区分を国土地理院のデジタルデータから引用しています。 積雪分布モデルはMotoya et al.,(2001)および本谷(2008)のもので、毎日の1キロメッシュ毎の積雪水量を冬季ごとに再現できます。なお対象領域は北海道周辺と東北6県周辺としました。 P4 診断型積雪分布モデル(SSDM)では右図にあるアメダス観測点の点のデータを1kmメッシュの面データにするため、標高に合わせて降水量を含む各々の気象データに補正を加えて1kmメッシュの気象データのデータセットを作成します。そして各々のメッシュに対して熱収支で積雪量を計算します。この方法であれば、地形の影響が考慮された分布傾向が出ること、またシンプルなモデルのため計算が速いことが長所となります。 P5 診断型積雪分布モデルで計算した2025年2月1日の積雪水量分布を図2に示します。 山間部の積雪水量は概ね500mm以上であるほか、東北南部の日本海側山間部では積雪水量が1500mmを超えており、図中では白抜きになっています。 さらに1991-2020年の30年間の平均値(平年値)とその間の年々変動の標準偏差を求め、積雪水量の寡多を平年よりも何σ(が標準偏差)多いか少ないかを表したのが、図3になります。 図3から、三八地方を除く青森全県や秋田県北の内陸部で積雪水量が多く、ところにより平年値+2σ程度またはそれ以上となっているような大雪のエリアが広くみられるほか、下越から西会津、猪苗代湖の北側の領域でも平年比+σ程度とやや雪が多い傾向がわかります。 P6 前述した診断型モデルによる積雪分布シミュレーションにより、東北6県(図4の範囲)の合計の積雪量(水換算)の季節変化を図5のように再現してみました。 東北6県全体として2024−25年冬季は12月から1月中旬までは時折の寒気の流下により降雪があり積雪増加なったことがわかります。1月下旬、雪の増え方が鈍ったり減少が見られたりしました。 しかし、3月上旬のピークに向けてここ45冬季中上位5位内程度の多雪傾向を維持しており、解析領域全体の積雪水量合計値は3/4に極大33.77Gtとなりました。 その後3月中旬以降の高温傾向で融雪が進みますが、寒気の戻りもあり、4月末になってもここ45冬季中上位10位程を保っていたことがわかります。 東北地方についていう限り2024-25年冬季は全体に雪が多かった、と言って差し支えないでしょう。 P7 診断型積雪分布モデルで任意の1km四方の積雪水量代表値が得られるので、その推定積雪水量をアメダスで観測された積雪深や降雪深で除して見かけの積雪密度を求めてみました。 東北北部で大雪傾向が顕著だった青森、弘前アメダスについて左から2024-25年冬季の日最大積雪深(および平年値)の季節変化、中央が推定した全層積雪密度、右が積雪水量の増分を降雪深で除した見かけの降雪密度のグラフになります。2024-25年冬季のほか、最近の冬で比較的大雪傾向だった2021-22年冬季についても示してあります。 図6の中央、右のグラフから、冬の初め(12月〜1月初め)において、青森・弘前の両アメダスでは, 推定した全層積雪密度と積雪日増分の密度の双方で2024-25冬季が2021-22冬季を上回っている(密度が高く、重い雪)傾向が見て取れます。 P8 次の図7は、少し南下した秋田県内で大雪傾向だった鹿角、阿仁合アメダスについて左は2024-25年冬季の日最大積雪深(および平年値)の季節変化、右は見かけの全層積雪密度および見かけの降雪密度を示しています。冬の初め(12月〜1月初め)において、秋田県北内陸部の鹿角では、雪の密度がやや高い傾向がわずかにみられますが、やや南に位置する阿仁合では密度のこうした高まりは皆無でした。こうしたことから、降雪密度が高くなる現象はかなり局所的で青森県津軽地方一帯から秋田県北内陸部までにとどまっていたと言えそうです。 P9 次に北海道についえt見てみましょう! 診断型積雪分布モデルで計算した2025年2月1日の積雪水量分布を図9に示します。 大まかに言って、日本海沿岸の積雪の多さが目立っていますが、日高地方の太平洋沿岸や十勝・釧路周辺では雪が少ない(あるいはない)ことが見て取れます(積雪観測によれば、モデルが積雪量をやや=10〜20mm程度過小評価しているようです)。 図8は同じく2025年2月1日について、1991-2020年の30年間の平均値(平年値)とその間の年々変動の標準偏差を求め、積雪水量の寡多を平年よりも何σ(が標準偏差)多いか少ないかの雪の客観的多寡を表したものです。渡島、桧山と後志の西部と空知地方から北側の領域や知床で平年並みからやや多い(平年値+σ程度)ほかは、全道的に雪が少ない傾向です。 P10 2024-25年冬季の北海道での局地的大雪事例として2024年2月4日の帯広周辺の積雪水量分布を調べました。 帯広で12時間降雪深120cmを記録した前後の2/3と2/4を比べると、図10上段から帯広付近とその南側の丘陵地帯や白糠丘陵で100mm以上の積雪水量増加がみられます。 同じく積雪水量の比標準偏差で見る(図10下段)と、2/3は全体的に平年値よりも積雪水量が少ない傾向だったものが、2/4には図の領域全体で平年値にかなり近づき、帯広および本別の東向き斜面手前では平年値+σ程度とやや雪の多い状態に一日で変化したことが判ります。 P11 2025年2月の帯広の大雪事例についてもう少し詳しくみてみましょう。 図11に帯広アメダスにおける2024-25年冬季および平年の日最大積雪深の季節変化を示します。2月4日に積雪深が平年の2倍以上になったもののその後はほとんど融雪する一方で平年並みの積雪深で推移しています。積雪モデルと気象データにより、ここ最近10冬季の帯広アメダス周辺の積雪水量季節変化を推定したのが図12で、冬の初めから徐々に積雪が増えるパターンは3割程度で、他の7割は低気圧通過時に一気に積雪が増えるパターンであって、2024-25年冬季もその一つと考えられそうです。 そこで誤差は大きいものの、推定積雪水量を積雪深や降雪深で割り算することで見かけの全層積雪密度および新雪密度を求めてみると、2024-25年冬季の雪の密度も2016-17,2017-18,2021-22の各年冬季と同程度と推定できました。 今回の大雪は、総観場の特徴や異様に高い太平洋沿岸の海面水温により生じたものの、十勝に降雪をもたらす多数派のパターンの一つだったとも言えそうです。 P12 今回のまとめは次の通りです。 2024-25冬季について診断型積雪分布モデルとルーチン気象データにより北海道および東北地方における1kmメッシュ平均の積雪水量分布を推定した.平年値相当の30冬季平均値や年々変動標準偏差を見積もりました。 東北日本海側北部(三八地方を除く青森と秋田県北)の大雪に伴う積雪水量の局所的増加(平年+2σ程度以上となる所も見られた)を再現できました。 モデルと観測積雪深・降雪深で推定した東北日本海側北部の積雪密度は高め傾向で防災研や弘前大による現地調査の結果1)と調和的でした。 2月初めの北海道帯広付近の大雪の再現では、一度の降雪イベントで平年よりかなり寡雪の状態から平年比+σ程度(積雪水量にして100mm程度の増加)になったことが確かめられました. 帯広の大雪時の積雪密度推定値(全層積雪密度と積雪増分の密度)は2016-17冬,2017-18冬,2021-22冬と同程度であったものと推察されました. 今回推定した見かけの積雪密度は1日以内の積雪の変質やその他の誤差も含んでおり、誤差も大きいと思われるが、大まかな傾向を確かめて、考察の糸口の一つと出来ることに一定のメリットがあると思っております。