研究内容


物質のナノ構造制御による革新的物性の発現と活用

1.ナノテクを用いた新材料の創製

本研究室では、真空成膜装置や微細加工装置等のナノテクノロジーを駆使した新材料の創製を行っています。材料の結晶構造やナノスケールの組織、試料形態などを人工的に制御してやると、通常のバルク材料(手に取れる大きさの塊)ではみられない新規な物性が発現することがあります。例えば大きさがナノメートル(nm)台のナノ材料では、磁気特性の向上、光発電の高効率化、生体適合性の向上、摩擦低減効果など、多種多様な有用性が報告されています。中でもナノ磁性体は、電子情報デバイス、発電・駆動等のパワーエレクトロニクス、バイオ医療材料等の分野で、革新的な機能材料として期待されています。

まず、スパッタ装置を中心とした薄膜作製の例を紹介します。図1に、高品質な薄膜の例として、L10型FePt規則合金の例を示します。FePtは、大きな磁気異方性(磁性体が温度や磁場等の外乱エネルギーに対抗する強さの源となるエネルギー)をもつため、次世代の磁気記録媒体や強力磁石として期待されていますが、一般的に高温での熱処理が必要です。本研究室では、酸化物添加/急速加熱法という新しい技術を開発し、低温で高い規則度とc軸配向性を両立させることに成功しました。加えて本技術は日本と米国で特許を取得しました。(特許第5013100号,US7927725B2)

また最近では、電気自動車や風力発電等の高出力・高効率化ために、強力な永久磁石への期待も高まっています。永久磁石モーターの出力・効率は磁力に依存するので、永久磁石は電気/動力のエネルギー変換に欠かせない材料です。本研究室では、極めて大きな磁化を有するFeCoに注目し、レアアース・フリーかつ高磁気異方性を両立した新材料開発も行っています。理論計算では、FeCoは体心立方構造(bcc)と面心立方構造(fcc)のちょうど中間くらいの結晶構造をとった場合に最大の磁気異方性を発現することが予測されています。本研究室では超高真空スパッタ装置を用いたエピタキシャル成長技術を駆使することで、上記の準安定な結晶構造の実現に成功しています。

次に、電子ビーム描画装置を中心としたナノ材料の作製例を紹介します。微細加工の工程では、薄膜上にレジスト(電子照射で固まる薬剤)を塗布し、そこに直径0.1nmに絞った電子ビームを照射・走査することで、任意の形状を描画します。図2は、直径が15nmの円板状に微細加工されたFePtの例です。15nmという大きさは、原子がだいたい50個分です。磁性体はここまで小さくなると規則化のメカニズムや磁化過程などが大きく変化し、磁気特性が飛躍的に向上することがわかりました。


図1 膜面に垂直にc軸が配向したL10型FePt薄膜(In-plane TEM像).


図2 直径15nmに微細加工されたFePt(SEM像).



2.ナノ材料の評価(精密計測)

ナノスケールの材料は非常に小さいために、精密な評価・計測が必要となります。例えばナノ磁性体では、表面や粒界などに現れる特異な磁気スピン配列の解明が必要不可欠です。本研究室での磁気構造の中心的な観察手法は磁気力顕微鏡(MFM)です。MFMは、10nm〜数μmの磁区構造を簡便かつ精密に観察するのに優れた手法です。図3はMFMを用いた実験の様子です。図4にはナノ粒子や反強磁性結合型の人工格子膜で見られる特異な磁区構造の例を示しています。

MFMはナノスケールの高い分解能を有しますが、逆に幅広い面積での観察は苦手としていますので、数十μm以上の巨視的な観察には磁気カー効果顕微鏡を用います。他にも試料の評価には、電磁誘導を利用した磁力計や光の偏光を利用した磁気カー効果測定装置、必要に応じて計算機シミュレーションを用います。

研究されるナノ粒子の大きさは年々小さくなっており、最近では直径10nm以下になることもしばしばです。したがって、ナノ磁性体の研究のためには、磁区観察装置の分解能を向上することも大切な研究課題の一つとなっています。


図3 磁気力顕微鏡(MFM)による磁区観察風景.右の装置は本研究室で開発した垂直磁場印加型MFM.


図4 (a)FePtナノ粒子と(b)反強磁性結合型人工格子膜で観察される特異な磁区構造(MFM像).



3.応用研究

新材料創製の研究は、未知の材料や物性を探索する基礎研究ですが、その応用を考えることも重要で楽しいことです。例えばナノスケールに微細化された磁性体の応用先は、超強力永久磁石、超高密度ストレージ、高速・不揮発性の磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)等があります。

図5は、ナノテクにより、直径が15nmの円板状に微細加工されたナノ磁性体(ドット)の磁区構造です。明るい色や暗い色のドットが見られますが、全て単色です。これは磁性体が微細化することで、磁化過程が大きく変化し、保磁力(磁性体が磁場に対抗して磁力を保とうとする力)が非常に高まったことを意味しています。高い保磁力は、磁性体を上記に応用するための必須条件となりますので、ナノテクは応用研究を進める上で、極めて有効なツールとなります。

現代の研究開発は種々の学問分野の融合の上に成り立っており、世界中の多くの研究者・技術者は、みな共同研究を実施しています。本研究室も例外ではなく、国内外の大学(東北大学,秋田高専,英国マンチェスター大学,中国蘭州大学)や公的研究機関(秋田県産業技術センター,ロシア科学アカデミー)や様々な民間企業と連携を図りながら、研究を進めています。


図5 直径15nmに微細加工されたFePtの磁区構造(MFM像).




実験設備・装置


成膜や微細加工などの試料作製の工程は、空気中の粉塵を取り除いたクリーンルーム内で行います。これは試料の汚染を防ぐためです。薄膜やナノ材料では、試料全体に対して表面が占める割合が非常に大きいので、表面の汚染は重大な影響をもたらします。そのため粉塵が出にくい専用のクリーンスーツやクリーン紙を使用して気を付けます。

試料の評価・計測は、以下の装置類を用いて行います。必要に応じて外部の研究施設(秋田県産業技術センター,東北大学金属材料研究所,イオンテクノセンター,大型放射光施設SPring-8 等)に出張して実験を行います。

 成膜装置(クリーンルーム内)
多層膜作製用マグネトロンスパッタ装置(SPM506) 
  
 合金膜作製用マグネトロンスパッタ装置(SPM406)
 超高真空マルチチャンバスパッタ装置(ヘリコン)
 微細加工装置(クリーンルーム内)
 電子ビーム描画装置(EB)
露光装置
 
  イオンミリング装置
 走査電子顕微鏡(改造型EB)
 
  イオンミリング装置(高エネルギー型)
 
熱処理装置
高速真空熱処理装置(RTA)
 
磁区観察装置
垂直磁場印加型磁気力顕微鏡(⊥MFM)
 
熱ドリフト補正型磁気力顕微鏡(MFM)
 
環境変化型高真空磁気力顕微鏡(MFM)
 
極磁区観察装置
 
 磁化測定装置
振動試料型磁力計(VSM)
 
交番力磁力計(AGM)
 
パルス磁場印加型極カー効果測定装置
極カー・面内カー切替え光学系
 その他の装置 
UVオゾンクリーナー
垂直磁場印加型プローバ

 
薄膜面内X線回折装置(In-plane XRD)
接触式段差計
 
 LLGマイクロマグネティックスシミュレータ
第一原理計算機
 


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